Diane (2002)

ミクストメディア
(マグネトロン、ヘルメット、ステンレス、ガラス、その他)
W90 × D50 × H100 (cm)

「卒展」東京都美術館

 電子レンジに頭を突っ込んで自殺した、写真家の話が忘れられない。

 それは、療養中の薬物中毒の友人に聞かされた話である。彼はフラッシュバックのせいで時々断片的で不可解なことを言った。だからこの話も真偽のほどは定かではない。

 電子レンジ——電磁波によって物質中の水分子に直接熱振動を与え、物質を温める機械。

 もし電子レンジに頭を突っ込んだなら、それは脳細胞中の水分が沸騰するということだ。文字通り脳が沸騰する体験とは果たして……。激痛?混乱?それとも解析できないような夢の体験?

 脳とは、人体のシステム全てを統合する機構である。それを直接無感動な腕でかき混ぜられるということは、自も他もない、想像を絶する混沌となるのだろう。

 

 

 テクノロジーの進化はさまざまなものごとを疑似体験できるようにし、視覚的イメージは体感を凌駕すると思われているかもしれない。将来ジェットコースターは映像だけでも体験可能になるのかも知れないし、いつかは物質すら、コピーや転送が可能になるのかも知れない。そのとき、物質の「存在感」という、皮膚感覚的な質感は、替わりの効かないなもののままでいるのだろうか。それともそれすらも「情報化」されて再現可能になるものなのか。

 この作品は、ヘルメットに電子レンジの能力を付加する、という操作を加えたものである。立体物のもつ物質的な存在感を、そのものが占める体積以上に増加させることが可能であるのかどうか。そのための試みとして、「物質に能力を与える」ということを行ってみた。電子レンジの能力を与えられたヘルメットは、それを持たないヘルメットと、どのように異なる印象を与えうるのだろうか。

 「存在の圧力」とでもたとえられるような、実物のもつ質感。その源泉や信憑性について、知りたいと思う。

 

 

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